この記事で分かること
- 57歳・元システム責任者が、これまでの資産形成シリーズ(『敗者のゲーム』から『JUST KEEP BUYING』まで)の最後に、なぜビル・パーキンス著『DIE WITH ZERO』を読む必要があると考えたのか
- 「資産を増やすこと」がいつの間にか目的化してしまう罠と、本書が突きつける「何のために蓄えたのか」という根本的な問い
- 人生の「使える時間」には限りがあり、お金を使うべきタイミングにも”賞味期限”があるという、本書独自の考え方
- このシリーズを通じて資産形成に取り組んできた読者が、次に向き合うべきテーマ
この記事を書いている人
- SEとして中規模システム開発会社に5年勤務、私立大学のシステム管理部門に25年在籍し、後半は部門責任者を務める
- 2026年1月1日、57歳で個人事業主として開業。退職金の多くをインデックスファンドに投じ、資産形成を実践してきた当事者
導入:「増やす技術」を極めた先に、待っている問い
このブログでは、これまで8冊の本を通じて「資産をどう守り、育てるか」というテーマを、理論・コスト・歴史・心理という4つの角度から掘り下げてきました。『敗者のゲーム』でコートに立ち続ける意味を知り、『インデックス投資は勝者のゲーム』でコストの残酷さを学び、『ファイナンシャル理論全史』でその理論の土台を知り、『サイコロジー・オブ・マネー』と『行動経済学が最強の学問である』で自分自身のバグと向き合い、最後に『JUST KEEP BUYING』という一つの実践に行き着きました。
これらはすべて、「いかにして資産を増やし、守るか」という技術の話でした。しかし、57歳になり、独立という人生の後半戦を歩み始めた私の中に、ある一つの問いがどうしても浮かんできました。
「では、この蓄えた資産は、一体何のためのものなのか」
この問いに真正面から向き合わせてくれる一冊が、ビル・パーキンス氏の『DIE WITH ZERO』です。今回、このシリーズのエピローグとして本書を取り上げます。
「資産を残して死ぬこと」は、実は最大の機会損失かもしれない
本書がまず突きつけるのは、多くの人が陥っている、ある皮肉な現実です。私たちは老後の不安から、必要以上にお金を貯め込み、結果として使いきれないほどの資産を残したまま人生を終える人が少なくありません。
一見、これは堅実で立派なことのように思えます。しかし著者は、これを「人生における最大の機会損失」だと言い切ります。なぜなら、お金というリソースは、貯めている間は何も生み出しませんが、適切なタイミングで経験に変換されたとき、初めて人生を豊かにする「配当(メモリー・ディビデンド)」を生み出すからです。
そして、その経験には“賞味期限”がある、というのが本書の核心的な主張です。海外を旅する体力、子どもと全力で遊べる時間、新しいことに挑戦する気力——これらは、銀行口座の残高のようにいつまでも取っておけるものではありません。年齢を重ねるごとに、同じお金で得られる経験の「価値」そのものが目減りしていくのです。
「何のために蓄えたのか分からないまま終える」という現実
貯めることそのものが目的になってしまい、何のために貯めているのかが分からないまま人生を終えていく人がいる——これは、資産形成を真剣に頑張ってきた人ほど、実は陥りやすい罠だと感じています。
もちろん、資産をどう使うか、あるいは使わずに遺すかは、最終的にはその人自身の自由な選択です。本書も、誰かの生き方を否定するものではありません。ですが、「気づいたら何のために蓄えたのか分からなくなっていた」という状態は、少なくとも本人が望んでいた結果ではないはずです。だからこそ本書は、資産形成の先にある「人生をより豊かにするための一助」として、大きな意味を持つのだと私は考えています。
元SEの視点で読む「タイムバケット」という設計思想
本書には「タイムバケット」という考え方が登場します。人生を10年単位などの「バケツ(区間)」に分割し、それぞれの時期に「その年齢だからこそできる経験」を割り当てていくという発想です。
これは、システム開発におけるリソース配分の考え方と非常によく似ています。限られた予算(人生の時間とお金)を、プロジェクトの後半にまとめて投下しても意味がありません。それぞれのフェーズに適切なタイミングで、適切なリソースを配分してこそ、プロジェクト全体(人生)の価値が最大化されます。
「老後にまとめて豊かに使えばいい」という先延ばしの発想は、実は最も非効率な資産の使い方かもしれない——本書はそのことを、データと具体的な思考実験を通じて突きつけてきます。
57歳、独立した今だからこそ響く「残り時間」の現実
57歳になり、個人事業主として人生の後半戦を歩み始めた今、私は「人生の残り時間」というものを、会社員時代とは比較にならないほどシビアに意識するようになりました。
このシリーズで紹介してきた投資理論は、どれも「時間を味方につける」ことが大前提でした。長期・分散・低コストで市場に居座り続けることで、複利という力を最大限に活かす。これは資産を”増やす”フェーズでは絶対的に正しい戦略です。
しかし、資産を”使う”フェーズに話が移った瞬間、時間は必ずしも味方ではなくなります。むしろ、使える時間そのものが有限の資源であるという、これまでとは真逆の現実と向き合う必要が出てくるのです。この視点の転換こそ、本書が私に与えてくれた最大の気づきでした。
まとめ:形成した資産を、自分の思うように使い切ろう
このシリーズを通じて、私たちは「いかに賢く資産を築くか」という技術を、8冊の名著から学んできました。資産形成そのものは、金額の大小にかかわらず、誰でも小さく始めることができますし、実際にコツコツと積み立てている方もそれなりに多いはずです。
一方で、その資産を「人生を豊かにするために、どう切り崩していくか」という視点は、資産の規模を問わず、あまり意識されていないのではないでしょうか。なお、本書に対しては「富裕層側からの一方的な理屈だ」という批判があることも事実です。すべての主張をそのまま鵜呑みにする必要はありませんし、実際に取り入れられる規模も人それぞれです。
大切なのは、本書の細部に賛同することではなく、「せっかく形成した資産を、自分が思うように使う」という発想を一度持ってみることだと思います。旅行や趣味に使うのも良し、子や孫のために遺すのも、もちろん立派な選択です。どちらを選ぶにせよ、それが「気づいたらそうなっていた」ではなく、「自分で選んだ結果」であることが重要なのではないでしょうか。
もしあなたが、これまで紹介してきた本を読んで着実に資産形成に取り組んでいるなら、ぜひ一度、本書をきっかけに「その資産を、何のために、いつ、どう使うのか」を考えてみてください。それが、これまでの「蓄える技術」の先にある、自分自身の人生を豊かにする一歩になるはずです。

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